特集:紙媒体がつなぐ未来 雑誌・同人誌・リトルプレスをつくるひとたち
1990年代後半以降、紙の書籍や雑誌の売上は右肩下がりが続いている。近年は、印刷資材の価格が高騰し、紙媒体の出版活動はますます厳しい状況だ。出版業界は、大量生産によって本の価格や資材のコストを抑えるモデルに依存してきたが、このモデルは本が広く売れることを前提に成り立っていた。しかし、インターネット、スマートフォン、SNSの爆発的な普及によって、本や雑誌の販売はかつての盛況を失い、特に雑誌は急激にその数を減少させた。この状況は旧来の生産と流通システムの維持を困難にし、出版業界の在り方自体の根本的な変革を余儀なくしている。
一方で、独立系出版社による新たな試みや、「紙媒体」での情報発信にこそ価値を見出す動きが盛んになっている。これらの新しい出版物は、既存の出版取次頼みのシステムから離れ、新たなネットワークやブランド価値を創造しようとしている。紙媒体がもつ独自の魅力を再評価し、現代の情報社会における新たな位置づけを模索しながら、独立した編集者たちは、自らの視点と使命感をもって、紙媒体の未来を切り拓こうとしている。
本特集では、『Subsequence』『mahora』『inch magazine』『MMA fragments』『MOMENT』『ランバーロール』『モノノメ』『SASHIKO BOOK』『mürren』『台湾手帖』『茶酔叢書』『ノーツ』『製本と編集者』と、多様なジャンルの雑誌・リトルプレスに焦点を当て、編集者やデザイナーへのインタビューを通じて、彼らが「今」どのような理念で活動を続けているのかを掘り下げる。
また、野中モモ氏にはZINEの最新潮流についての見解を、文学フリマを主催する望月倫彦氏には文フリのこれまでとこれからについての洞察を寄せていただいた。映画館「Stranger」の元代表である岡村忠征氏には、ミニシアターとしての「場」づくりと自社発行メディアの役割についての考察をお伺いしている。
紙幅の都合上、本特集に参加いただいたメディアはほんの一部に過ぎないが、雑誌・同人誌・リトルプレスを手がける編集者たちの活動は現在も着実に広がっている。こうした小さくとも力強い試みが、やがて大きな変革の火種となり、業界の「再発見」につながるのではないだろうか。